社外取締役対談 取締役と執行陣が一丸となって
新中期経営計画の達成を目指す

社外取締役
佐久間 総一郎

新日本製鐵株式会社および新日鐵住金株式会社(現・日本製鉄株式会社)において、製造業の経営に長年にわたって携わり、企業経営者としての豊富な経験と幅広い識見を有する。2020年6月に当社の社外取締役、2023年6月にコーポレートガバナンス委員会委員長に就任。

社外取締役
程 近智

経営コンサルティングおよびITサービスを提供するアクセンチュア株式会社の経営に長年携わり、企業経営者として豊富な経験とデジタルビジネスに関する幅広い識見を有する。2018年6月に当社の社外取締役、2022年6月に取締役会議長に就任。

前中期経営計画の評価 ── 前中期経営計画「DX2022」の結果をどのように評価されていますか。

「DX2022」の成果を評価するためには、3年の計画期間だけでなく、以前の計画にまで遡って長いスパンで考えていく必要があります。そんな大局的視点から見ると、当社にとって大きな節目となったのが、2014年度からスタートした「TRANSFORM 2016」でした。そこから「SHINKA 2019」「DX2022」と計9年間にわたって、複合機ビジネスに依存していた事業ポートフォリオからの転換に取り組んできたわけです。
佐久間
その通りで、一貫してポートフォリオの転換を図り、新しい事業領域から次の柱の確立を目指してきました。
「DX2022」では、ポートフォリオの転換の仕上げとして、プレシジョンメディシン事業や画像IoTソリューション事業、Workplace Hubを含むDW-DX事業などにおいて具体的な成果を刈り取るタイミングでした。しかし、米中貿易摩擦や新型コロナウイルス感染症の拡大といった逆風に曝され、思うような成果を上げることができなかった。さらにトナー工場の事故などの内部要因もありました。これらの影響により、赤字が続く結果になりました。
佐久間
「DX2022」では、最終年度の営業利益550億円の目標を掲げながら、最終的に951億円の営業損失を出しました。経営は結果が一番重要であり、今年度、当社は黒字決算以外は許されない状況です。ただし、最終年度の2022年度の業績を見ると、事業貢献利益は前年度から大幅に改善され、黒字転換を果たしています。このように、当社は追い詰められた状況にある一方で、事業の稼ぐ力は確実に改善されつつあり、今後反転していけることを計画最終年度で示せたのではないかと思います。
振り返ると、2018年10月頃から米中対立が尖鋭化し、その後、計画値と実績のギャップが広がり始めました。情勢変化への対応は結果的に機を逸し、マーケットからの信頼と従業員の自信に影響しました。大幸社長が就任した2022年度からは、コミットした施策や目標数字を達成していけるようになったと感じています。
佐久間
大幸社長自身も「実行力を高め、等身大の経営を評価してもらえるよう努力する」と語っていましたが、環境変化の影響を受けながらも予算と実績との乖離が小さくなったことは評価すべきだと思います。

コニカミノルタの強み ── 今後の事業競争力強化に向けた強みはどこにあるとお考えですか。

佐久間
それは高度かつ多彩な技術力に裏付けられた「モノづくりの質」にあると思います。世界を見回してもメカニカルとケミカルの両面で高度な技術を備えている企業は非常に珍しい。私自身もメーカー出身なので、いろいろなサプライヤー、同業者とお付き合いしてきましたが、他にあまり思い浮かびません。その強みは、無線動画撮影機能を備えた回診用X線撮影装置や、ラベルプリンター、テキスタイルプリンターといったデジタル製品の開発につながっています。
私が経営する会社でもコニカミノルタの複合機を使っていますが、メカニカル、オプティカル、エレクトロニクス、ネットワーク、ケミカルやナノテクノロジーなど、本当にさまざまな技術の擦り合わせによって成り立っている製品だと感じます。さらに新しい材料を開発する際にはマテリアルインフォマティクスを活用するなど、時代の先端領域にも果敢にチャレンジしています。
佐久間
それに加えて、欧米を中心にグローバルな営業・サービスのネットワークを構築しており、世界中にさまざまな業種業態のお客様と接点を持っているのは、他社にない大きな強みです。
おっしゃる通り、技術起点でマーケットを開拓し、それをグローバル展開していけるのも当社の強みです。営業・サービスのみならず、世界のさまざまな地域にソフトウェアエンジニアの人財がいることを活かし、市場のニーズに対応した機能をタイムリーに提供していけるのも差別化のポイントの一つだと思います。

新中期経営計画の蓋然性 ── 中期経営計画(2023~2025年度)の策定にあたり、取締役会ではどのような議論を交わされたのでしょうか。

従来の計画策定プロセスは、執行側が内容をほぼ固めてから取締役会に上程する流れでしたが、今回はまだ素案の段階から社外取締役も議論に加わって内容を検討していきました。2022年の夏の終わり頃から議論を始め、最終的に2023年の5月までかかりました。途中、経済環境、競争環境の変化もあって紆余曲折しましたが、結果的には多角的な観点からより深みのある充実した議論ができたのではないかと思います。
佐久間
新中期経営計画では、各事業の位置づけを見直し、まず2023年度と2024年度の2年間で事業の選択と集中を進めていきます。とりわけ、これまで戦略的新規事業と位置づけてきた事業の一部を「非重点事業」や「方向転換事業」に変えたのは大きな決断だったと思います。今回の見直しの結果、各事業が何を目指すのかが非常に明確になりました。
今回の中期経営計画には表題がないのですが「、TRANSFORM 2016」から「DX2022」までの9年間の取り組みを一旦総括した上で新たなスタートを切る、そして「過去の反省と学びを経営に最大限に活かす」といったメッセージも込めて、「過去からの決別」を一つのキーワードとしています。
佐久間
私も会社勤めが長いのでよくわかるのですが、「過去からの決別」というのは、企業人にとって極めて重い文言です。これを中期経営計画の発表資料で用いるのは非常に勇気のいることだったと思います。その決意を私たちも後押しする形でこの文言が盛り込まれました。
当社のこれまでの歴史を振り返ると、祖業であるカメラ・フィルム事業から撤退してでも事業ポートフォリオを転換してきた実績があり、実は変革をあまり恐れない会社です。中長期的な企業価値向上に向けて、この3年間は新たな旅立ちに向けた準備のステージだと捉えています。

── 経営目標の設定に対する意見をお聞かせください。

佐久間
今回の中期経営計画においては、ステークホルダーからの信頼回復と、従業員の自信回復を実現することが何より重要であり、それが経営目標を設定する上でのベースにもなっています。マーケットからはやや保守的な目標設定に思われるかもしれませんが、現在の当社の状況を考えれば適切な目標であると思います。
業績が落ち込んだ後は誰もがV字回復を願うものですが、1-2年で黒字に転換することはできても、業界をリードする存在になるには時間を要します。ですから、今回の中期経営計画は、将来大きくジャンプするための第一歩と捉えています。こうした計画の方向性や目標設定には蓋然性があると考えていますが、その実行についてはスピード感を持って取り組んでいかなければなりません。
佐久間
2025年度の財務目標のなかでも、強化事業の売上高を5,000億円にスケールアップし、同事業で高い収益力を維持することは決して簡単ではなくチャレンジングな目標です。ROE5%以上についても大きく改善することになりますが、これでもまだ物足りないという声があるのも事実です。したがって、ステークホルダーの信頼を回復するためには、何としても達成しなければなりませんし、これを成し遂げることで従業員の自信も回復できるはずです。

── 今回、非財務目標である「CO2排出量削減率」と「従業員エンゲージメントスコア」を役員報酬の評価基準に組み入れた意図を教えてください。

佐久間
財務目標に比べると非財務目標は「経営陣の努力」と「目標達成」の直接的な相関関係が強くないので、報酬委員会でもさまざまな意見が出ました。例えば、事業を通じて環境課題への貢献に取り組んでいますが、自社でのCO2排出量は、経営陣が努力しなくても、売上・生産量が落ちれば排出量は低下します。しかし、これでは本当に目標を達成したとはいえません。
しっかりと財務目標も達成した上で、非財務目標を達成しなければ、結局は企業価値向上にはつながりませんからね。
佐久間
ですからCO2排出量についてはデカップリングの視点が必要になります。売上や生産量の拡大とエネルギー消費とを切り離し、経営陣のプロアクティブな取り組みによって目標が達成されたのかどうかを報酬委員会でモニタリングしていかなければなりません。
私は、このなかでもとくに「従業員エンゲージメントスコア」に注目しています。当社がこれから財務目標を継続的に達成していくためには、これが肝になるのではないかと考えています。従業員の能力が同じでもモチベーションが高い人財が揃っている会社と、そうでない会社とでは、最終的なパフォーマンスに大きな差が出るからです。従業員一人ひとりの能力をしっかり見極めると同時に、エンゲージメントを高め、全員の力を同じベクトルに結集することが、執行力の強化につながります。いわば人財のトランスフォーメーションの実現が今後の大きな課題であり、取締役会でもその進捗をしっかりモニタリングしていくつもりです。

コーポレートガバナンスの進化 ── 2022年度から社外取締役が取締役会議長となりましたが、この1年間、取締役会ではどのような変化がありましたか。

佐久間
社外取締役の程さんが議長に就任したことによって、執行側において「社外取締役の目線に合わせて議論しよう」という意識がより一層強まった気がします。その結果、フラットな立場から活発な議論ができるようになったと思います。
佐久間さんのおっしゃる通り、以前は社外取締役が質問して執行陣がそれに答える形が多かったのですが、最近では、社内・社外の立場を超えてもっと掘り下げた議論ができる場に変わってきました。その結果、執行側と取締役とで一緒に施策を練り上げるスタイルが明確になってきたと思います。
佐久間
それは、「社長が取締役会の議論に何を求めるか」が変わってきたからではないでしょうか。従来は、執行側が方針を固めてから、それを取締役会で検証・承認するという流れでしたが、昨年度からは執行側が複数の選択肢を提示し、取締役会で議論して方針を決定するスタイルも取られるようになっています。
また、昨年度からは社外取締役だけのミーティングを月1回のペースで開催しています。社外取締役の場合、取締役会で「ここはどうなのかな」と疑問を感じても、情報不足でその場では的確な質問や意見ができないこともあります。そこでこのミーティングで皆の疑問や意見を共有し、次の取締役会にフィードバックすることによって取締役会の議論がさらに活発になっています。
佐久間
加えて、一昨年までと決定的に異なるのは、取締役会で社外取締役が過半数を占める構成になったことです。つまり、仮に社内と社外の取締役で意見が割れた場合、社外の意見が通る体制になったのです。執行側にとっては、社外取締役を納得させられる議案を上程し、十分に説明を尽くさなければならないという緊張感が生まれます。もちろん、社外取締役の責任もさらに重くなったわけであり、私たちもそれを自覚して一層の緊張感を持って臨まなければなりません。

── コーポレートガバナンス委員会を新設した狙いをお聞かせください。

佐久間
当社は、国内でいち早く指名委員会等設置会社となり、昨年度からは議長を含む社外取締役が取締役会の過半数を占めるようになるなど、先進的かつ模範的なコーポレートガバナンス体制を構築してきました。しかし、それに業績がともなっていない現状があり、そのギャップを埋めるためにはどうすべきかという問題意識が委員会設立の出発点です。また、ガバナンスそのもののあり方についてしばらく議論してこなかったのも理由の一つでした。
当社は2003年に現在の機関設計へ移行して以降、指名・監査・報酬の三委員会では、独立性を高める観点から委員に社長を任命しない自社ルールを継続しています。今年度は当社社長経験者の委員も含まれておらず、指名や報酬にかかわる審議事項が、社外取締役過半数の体制で議論されています。中期経営計画の承認といった重要な議案においても、昨年度から社外取締役過半の取締役会で決定を下しています。まさに日本のコーポレートガバナンスのフロンティアと言っても過言ではありません。ただし、お手本がないだけに、本当にこの仕組みで良いのかを自ら検証していく必要があります。例えば、取締役会におけるマネジメントとモニタリングのバランスや、取締役のスキルセットなどに関してもさまざまなオプションが考えられますが、当社がきちんと結果を出すためには何がベストなのかを見出していかなければなりません。
佐久間
今年改訂されたOECDのコーポレートガバナンス原則のなかでも、大枠の考え方が示されているだけで、具体的な仕組みについては各社が自らに合った制度をつくっていくことになっています。要するに、コーポレートガバナンスにはこうすれば間違いないといった“シルバーブレット”は存在しないので、自分たちで制度を考えていかなければなりません。当社が置かれている状況や将来ビジョンなどを踏まえ、どのようなガバナンスがベストなのかを検討していくのが委員会のミッションだと考えています。
当然、日本のコーポレートガバナンス・コードにも書かれていませんから、逆に先駆的なベストプラクティスを体現できる会社になりたいですね。
佐久間
なお、指名・監査・報酬の三委員会では社長が委員から外れていますが、コーポレートガバナンス委員会には社長も委員として参加しています。これは非常に良い仕組みだと考えています。同委員会では取締役会や他の委員会で取り上げるのが難しい多様なテーマについて議論するなど、ある種の隙間を埋める役割も担っているため、他では聞くことのできない、さまざまなテーマに関する社長の本音や執行側の考えなどについて理解を深める良い機会になるからです。

── 新中期経営計画の達成に向けて、
社外取締役としてどのように取り組んでいこうとお考えでしょうか。

佐久間
何といっても2023年度の結果が圧倒的に重要です。過去2年間の業績が危機的な水準で推移したことを踏まえれば、2023年度の営業利益180億円は必ず達成しなければなりません。
その目標達成に向けて設定した各種KPIをモニタリングしていくわけですが、計画期間中も外部環境、競争環境はめまぐるしく変化するので、柔軟に対処していくことが重要です。環境変化によって計画に遅れが生じる恐れが出た時などは、迅速に追加施策を講じ、それに合わせて目標をチューニングしていく必要があります。
佐久間
まさに、今後も環境変化は必ずあります。環境変化そのものは自分ではコントロールできないので、コスト管理など自助努力によってできる対策をしっかりとやり切ることが重要になります。そのために、コスト管理に関する責任を明確化し、これをより効率的に実行していくためのマネジメントシステムを早急に整えないといけないと考えています。
現在の危機モードから脱出するには強化事業を確実に伸ばしていくことが大切です。とくにインダストリー事業については、基本方針やアクション項目が明確になり、今後はどのように事業を育成、強化していくかなど、具体的な施策へ落とし込んでいく段階に入ります。こうした施策の策定と実行についてもしっかりモニタリングしていこうと考えています。
佐久間
「DX2022」は未達に終わりましたが、インダストリー事業は将来の当社の柱に育つ可能性も十分にあると見ています。これらの強化事業領域で目標以上の成果を出し、中期経営計画の最終目標についてもできるだけ上積みできるように全員で努力したいと思います。
それには当社全体の執行力を強化することが大切です。人財を最適配置するのはもちろん、それにともなう社内の投資配分と循環の仕組みをしっかりつくり、事業組織を絶えず活性化させていく必要があります。そんな執行状況を詳しく把握するためにも、今年度はいろいろな事業の現場に足を運んで、取締役と執行陣との距離感をもっと近づけたいと思います。そして実態を正しく理解した上で、業績向上に直結するコーポレートガバナンスの仕組みや、執行力強化に向けた施策などについて、取締役会や各委員会で徹底的に議論し、中期経営計画の達成に貢献していきたいと考えています。

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イントロダクション (PDF:2.2MB)

  • 目次・編集方針
  • コニカミノルタフィロソフィー/経営ビジョン
  • コニカミノルタのDNA
  • コニカミノルタの事業とプレゼンス
  • 価値創造プロセス

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  • CEOメッセージ
  • 社外取締役対談
  • DX2022の振り返り
  • 新中期経営計画
  • 財務戦略
  • サステナビリティ戦略
    • 経営ビジョンの実現に向けたマテリアリティ
    • 社会・環境課題解決に貢献する成長ドライバー
    • サステナビリティ目標
  • 技術戦略
    • TOPICS : 外観検査でのAI活用
  • 知的財産戦略
  • 生産・SCM戦略
  • 人財戦略
    • TOPICS : KMアワード受賞プロジェクト
  • TCFD提言に基づく開示

事業戦略 (PDF:2.5MB)

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