取締役会議長、指名委員会委員長
メッセージ
取締役会議長
社外取締役澤田 拓子

取締役会議長就任にあたって
2025年6月より取締役会議長に就任し、改めて、当社が培ってきた技術力に裏打ちされた企業価値を次の成長へと導くための、ガバナンスの実効性向上に尽力したいと考えています。
地政学リスクの高まり、サプライチェーンの混乱、気候変動対応、そして人々の価値観や社会的行動の多様化など、企業を取り巻く経営環境はかつてないほど不確実性を増しています。そのような時代だからこそ、取締役会が持つ監督機能と戦略的議論の場としての役割は、より一層重要です。私はこれまで、製薬・化学・デジタルなど多様な事業において経営や研究開発などに携わってきました。その経験を活かし、当社の持続的成長と中長期的な企業価値向上に貢献できるよう、建設的かつ透明性の高い議論の促進に努めていきます。
執行に対する評価
2023年度に始まった「中期経営計画2025」に基づいて実施してきた経営改革について、特に資本効率や収益構造の見直し、事業の選択と集中の徹底など、執行側は厳しい判断をともなう改革を着実に実行しました。2024年度までに経営改革を完遂することは、中期経営計画最終年度の2025年度を「成長に向けて舵を切る年」とするための必須条件でしたので、この2年間の執行側の取り組みを評価しています。
一方で、2024年度は最終損益の赤字により無配となり、株主の皆様にはご辛抱をお願いしている状況です。PBRも依然として1倍を下回っており、市場からの信認を得るためには、早期に株主資本コストを上回るリターン(ROE8%以上)を達成することが不可欠です。
2024年度に取り組んだ事業の選択と集中を経て、市場価値を踏まえた各事業が持つ真の強みや競争力を、取締役会でもより深く見極めていきます。特に、成長ストーリーの中核を担うべきインダストリー事業については、中期的な数値目標の実現可能性の検証に加え、執行側が成長に向けて適切にリスクを取り、そのリスクに対する意思決定やモニタリングが十分に行われることが重要です。リスクと機会の両面を踏まえた経営戦略に対し機動的な議論をする場として、取締役会の機能を一層強化していきます。加えて、資本コストを意識した経営判断がなされているか、中長期的な成長の道筋に対して適切なリソース配分がなされているか、戦略を実行するためのケイパビリティがあるかといった観点からも、モニタリングを行います。
また、情報機器事業においてはコスト構造の本質に対する議論を一層深め、もう一段掘り下げる必要があります。プロフェッショナルプリントやヘルスケアなどの領域では、当社の競争優位の源泉を明確にしていきます。
2025年度の取締役会運営方針
中長期の成長に向けて当社の将来像を明確にするために、2024年度は「平時ではない年」として負の遺産の整理に専念した執行側の決意に対し、監督側も同様の優先順位を執行に求めた1年でした。取締役会が執行力向上の観点からの助言や関与を敢えて優先したとも言えます。
これに対して2025年度は、モノづくり企業としての「持続的な競争優位性」を見極め、議論を深めるという取締役会本来の役割に立ち返りたいと考えています。技術と顧客価値を中核に据えた中長期の成長戦略についての建設的な議論を深め、その過程で形成されるエクイティストーリーに対し、執行と監督の間でコンセンサスを築き、合意したKPIやマイルストーンをモニタリングしていくことが重要です。そして、資本市場を含むすべてのステークホルダーに対して、明確かつ一貫したメッセージを発信していく責任があると認識しています。資本市場は、これ以上の猶予を与えてはくれないでしょう。
これまでの経験や技術の知見に基づく成長戦略に対する期待
私は長年にわたり、研究開発部門と経営の橋渡しの役割を担ってきました。イノベーションは、単に技術的な成果にとどまらず、それをいかに市場や社会価値につなげられるかが鍵になります。その観点から見て、当社が有する画像・材料などの高度な基盤技術は、労働人口減少や資源問題などの社会課題の解決に貢献し得る大きな可能性を秘めています。
今後、これらの技術を社会実装へとつなげていくためには「共創」や「外部との連携」が一層重要になっていきます。私は、社外の目線とエコシステム構築時における技術の価値評価に対する理解をもとに、当社の強みを市場価値に転換する推進力となるよう尽力します。
同時に、当社の人財と組織が、急速に進化する科学技術や環境の変化を先取りし、主体的に楽しみながら変革を推進できるような企業風土を醸成することで、真の成長を目指します。
指名委員会委員長
社外取締役峰岸 真澄

執行役社長の後継者選定プロセスにおける指名委員会の監督機能
当社は2003年より、委員会等設置会社(現・指名委員会等設置会社)を採用し、法定三委員会の委員長はすべて社外取締役から選定しています。また、独立社外取締役が過半を占める指名委員会が社外取締役のサクセッションプランを主導することで、執行役人事を決議する取締役会が社内の論理に偏らないようにしています。
執行役社長の後継者選定に関する監督と助言においても、透明性と客観性の確保を重視しています。指名委員会は、その監督と助言にあたり、将来の経営環境や事業ポートフォリオを見据えたリーダー像の再定義から取り組んでいます。その上で、候補者に求める資質の明確化を執行役社長に要請し、スキル・マトリックスを活用して候補者の経験・能力を可視化しています。また、候補者の選定と育成のプロセスについて、年2回、社長からの報告を受け、指名委員会が継続的に監督・助言を行います。状況の変化に応じて候補者リストを柔軟に見直し、交代時期を見据えた集中的な育成と評価も並行して進めます。
さらに、成果へのこだわりや将来を指し示す力といった経営者に必要な資質を評価し、報酬制度と連動させるほか、バックグラウンドや経験、定性的評価(人財をエンパワーしチームを統合する力、海外での現場対応力など)も重視しています。また、社外取締役と後継候補者の接点を設けることで、多面的な理解と納得性をもって取締役会で執行役社長の選定決議ができるよう努めています。
こうした一連のプロセスを通じて、指名委員会として戦略的かつ一貫性のある監督機能を果たしています。
大幸社長の再任に関する監督側の評価
大幸社長の再任については、主に以下の3つの観点から総合的に評価を行いました。
第一に、「重要施策の実行力」です。2024年度は、利益を一時的に圧迫する特別施策について必要性を社内外に丁寧に伝えることで説明責任を果たした点と、グローバルでの人員最適化と事業の選択と集中といった経営改革を完遂した点を評価しました。
第二に、「経営改革の継続性」です。2023年度から始動した中期経営計画を一貫して主導してきた社長の続投が、改革の継続性・実行力の観点から不可欠と判断しました。
第三に、「リーダーシップと組織への影響力」です。「等身大の経営」へと舵を切り、実行可能なチャレンジ目標を適切に設定し、着実に成果を上げるマネジメントスタイルは、社内外からの信頼を獲得しています。社長就任以来の3年間は、過去との決別を明確に打ち出しながら変革を主導し、従業員の間でもその姿勢は前向きに受け止められています。一方で、2025年度以降は、“過去の負の遺産の一掃”から、成長基盤を確立させる新たな段階に入ります。今後は、会社を持続的な成長軌道に乗せるための手腕が問われるとともに、負の遺産の清算以上に困難な新規事業の立ち上げをけん引する経営者としての真価が、改めて問われることになります。
執行に対する評価
2022年度の社長就任以降、大幸社長は複数の構造的課題に取り組んできました。2024年4月には従来の多層的な役員体制を見直し、社長直轄で責任を集約する執行体制へ移行しました。これにより、経営機能の明確化と意思決定の迅速化が進みました。私は、取締役会および委員会を通じて、執行の各階層における責任の所在の明確化と、それに基づく厳正な評価の必要性を一貫して求めてきました。グループ全体への浸透には一定の時間を要するものの、私が取締役に就任した2022年当時と比べると、執行役層においては、責任と評価に関する社長のマネジメントが明確に変化していると実感しています。グローバル企業として、こうしたマネジメントが組織全体に定着することが、一層の強化につながります。
また別の観点では、グローバル人財の登用、女性役員のパイプライン構築、年功序列によらない人財登用といったテーマも、指名委員会で繰り返し議論されてきました。特に採用母集団が限られる技術系女性人財については、中長期的なリーダー育成に向けて、制度整備だけでなく企業文化そのものの変革が求められます。
企業も組織も「完成形」は存在しません。変化し続ける環境のなかで自らを常に暫定的な存在と位置づけ、いかにガバナンス体制を適応・進化させ続けるか。それこそが、私たち指名委員会を含む監督機能に課された本質的な使命であると考えています。