イノベーションストーリーズ

センシング

始まりはカメラメーカーならではの
光を測る技術
産業のバリューチェーンを支える
光と色のモノサシを提供

目次

長さや重さのように、色を数値で表すことができるのはご存じでしょうか。当社の色計測の原点は、写真撮影のときに明るさを測る露出計です。当初はカメラ内蔵のものを研究開発していましたが、その機能を独立させて1964年にミノルタが発売したのが、露出計「ビューメータ―9」です。続いて発売した高性能露出計「オートスポット1°」が米航空宇宙局(NASA)の目に留まり、その依頼を受けて、宇宙の厳しい環境に耐えうるように改良したのが「スペースメーター」です。1969年に史上初の有人月面着陸を果たしたアポロ11号にも搭載され、当時の人々を熱狂させた宇宙写真の撮影に貢献することになりました。

この測光技術をベースに、光と色のモノサシを提供してきたのが、当社のセンシング事業です。ディスプレイや照明の品質管理の現場では多くの企業に標準機として採用されるほか、自動車・塗料・プラスチック・繊維・建材・食品など多くの産業界で色管理に不可欠な製品を展開してきました。近年ではさらに領域を拡げ、ものづくりのバリューチェーンを支え続けています。

ビューメータ―9とスペースメータ センシング事業製品イメージ

カラーテレビの黎明期を支えた対応力

露出計に始まった当社の測光技術は、1968年、「TVカラーアナライザ」として産業用計測機器の分野に活かされることになります。開発のきっかけは、朝日放送の技術者から寄せられた、「モニター上の白を"正しい白色"で映し出したい」という要望でした。当時は、テレビのカラー放送が始まって間もない時代。どのテレビ局もモニターのホワイトバランスの調節に苦心していたため、この製品は多くの局に採用されることとなりました。

テレビ局での活躍が知られると、今度は家電メーカーから、テレビの製造工程でブラウン管の色調整に用いる計測機器を開発してほしい、との依頼を受けることになります。テレビ番組の色をお茶の間のカラーテレビでも同じ色で映すためには、やはり色調整が欠かせないからです。ところが、一般消費者向けのテレビとなると、テレビ局用モニターに比べて生産量ははるかに多くなります。そこで求められたのが、色計測の高速化と自動化でした。センサーの感度を上げることで計測にかかる時間を短縮するとともに、作業員が手持ちで計っていた計測機器を製造装置に組み込み、コンピュータ制御で作動するようにしました。こうして要求に見事に応え、カラーアナライザはテレビ局向けから家電メーカー向けへ進化を果たします。ディスプレイの製造工程における光源色の計測の歴史が、ここから時を刻み始めました。

TVカラーアナライザ TVカラーアナライザ

光源色の計測機器にとってターニングポイントになったのは、新しいディスプレイの登場です。テレビが誕生してから長らく主役だったブラウン管に代わって、1990年前後から液晶テレビが普及していきます。液晶は薄型化が可能なため、ノートパソコンや携帯電話、スマートフォンなど、テレビモニター以外の用途が格段に拡がりました。液晶ディスプレイの生産量はブラウン管の時の比ではなくなり、「ディスプレイカラーアナライザーCA-210 」など液晶測定に適した当社製品の需要も急拡大していきました。

ディスプレイカラーアナライザーCA-210 ディスプレイカラーアナライザーCA-210

続いて登場したのは、有機ELディスプレイです。バックライトの透過光で映像を表示する液晶と異なり、有機ELは自発光のデバイスなので、表示可能な色の幅が広く、暗さの微妙な違いもしっかり表現します。その「暗さの違い」を高速に計測するには、感度を飛躍的に高めなければなりません。この高感度化は大きな課題でした。センサー自体の感度向上の余地はあまり残っていなかったため、残るは電気回路のノイズを抑えること、そして、光をできるだけ効率よくセンサーまで届けるための光学系の改良でした。ここでも、カメラメーカーの強みが発揮され、2007年に超低輝度領域までの測定性能を有する「分光放射輝度計CS-2000」を発売、新しい需要に応えていったのです。

分光放射輝度計CS-2000

その後も当社は市場の要請に応える開発を進め、現在、各種ディスプレイの光源色測定市場において5割を超えるシェアを占めており、多くのトップブランドおよびバリューチェーンを構成するお客様との関係を維持しています。

小型軽量ハンディタイプが産業界の色管理を普及

ディスプレイや照明のように自ら光を発するものの色を測定することを「光源色計測」と言います。それに対して「物体色計測」は、自らは光らないものに光を当てて、その反射光を測ります。これは人間が色を見る仕組みと同じです。物体が反射する光をまず目の代わりを果たすセンサーで受け止め、その強さを数値化するのです。当てる光によって、見える色は変わります。カメラメーカーだった当社の発想は、カメラ用フラッシュで光を当てて色を測ることでした。カメラ用フラッシュは太陽光に近い光を照射するので、自然光で見るのと同じような色に見えるからです。

世の中のありとあらゆるものが物体色計測の対象になります。工業製品、衣類、印刷物、食品、化粧品…。金属・樹脂などの固体から液体、粉体まで、さまざまです。人間の目は色を比較する能力には優れていますが、個人差もあり、処理スピードにも限界があります。したがって、物体色の計測が産業界に広がっていったのは自然の流れでした。

物体色計測の対象 物体色計測の対象

典型的な例は、自動車です。金属のボディと樹脂のフェンダーのように、素材が異なっても色を合わせる必要があります。塗料メーカーや素材メーカーなど、サプライチェーンを構成する関連各社に使用する色を指定し、同じ色を表現してもらうため、色の数値管理が不可欠なのです。

食品でも色の管理は重要です。加工前の野菜や食肉などでは、成熟度合いや鮮度を管理する必要から、色を計測します。また、パンの焼き色やジュースの色などは、品質とともにおいしさを示すバロメーターともなります。

物体色を測る製品は光源色測定と同時期から開発されていましたが、展開のきっかけとなったのは、1980年に発売した「ミノルタ色彩計」でした。これは光源色・物体色の両方を測定できる製品でしたが、その2年後、1982年には物体色専用の「ミノルタ色彩色差計CR-100」を発売します。画期的だったのは小型軽量のハンディタイプだったことです。当時使用されていた測定器は大型で、測定したいものを研究所や品質検査室に持っていくのが普通でした。ハンディであれば測定器自体を現場に持って行けるため、計測したいものがどんなに大きくても重くても、その場で手軽に計測できます。コンパクトでなおかつ使いやすい形状にデザインできたのは、カメラメーカーならではの強みでした。「色」の計測機器はさまざまな業界に受け入れられることとなり、当社のセンシング事業も成長を遂げていきます。

色彩色差計CR-100

計測機器のグローバル展開を支えたのは、カメラや複写機の販売で世界中に張り巡らせていたネットワークでした。機器の信頼性と相まって、世界各国のお客様に導入されていったのです。

色の管理は幅広い業界で必要とされていますが、計測機器を活用されていないお客様もまだ多くおられます。展示会やウェビナーを通じて、新しいお客様に色を測る仕組みから計測機器の活用法までしっかりとご説明し、さまざまな業界のDX化に貢献していくことも、我々の重要な役割だと思っています。

信頼が築いたデファクトスタンダード

2010年代以降、センシング事業は大きな変革の時期を迎えます。事業拡大をどのように進めていくべきか、取り組みを模索する中で、大型の企業買収(M&A)の挑戦に踏み出したのです。以前から企業の合併が多い業界でしたが、競合メーカー同士の合併により、シェアの変動が起きていた時期でした。

まず2012年にドイツの大手照明関連測定器メーカーであるInstrument Systems社を、続く2015年には米国のディスプレイ検査システムメーカーであるRadiant Vision Systems社を買収し、光源色の計測機器における事業基盤を強化しました。

Instrument Systems 社 Radiant社

Instrument Systems社は、光源色計測の世界基準となる精度の高い製品を作っており、世界的に高い評価を獲得しています。さらに、開発のみならず営業職も含め、従業員の三分の二が博士号を持っているという、人財の面でも非常に優秀な会社です。また、Radiant Vision Systems社は、ディスプレイ検査市場において、お客様の要望に応じてカスタマイズしたシステムを開発・提供するリーディングメーカーであり、特にソフトウェア開発に高い専門性を有しています。コニカミノルタ側の担当者は「会議で対等に話をするのも緊張しましたし、今でも彼らをリスペクトしています。お客様の懐に飛び込み、共に仕様を固めていくビジネススタイルなどにも、見習うところが多いと思っています」と言い、単なる親会社と子会社ではない、高めあう仲間としての信頼関係を築いています。

その後、2019年に自動車外観検査市場の有力企業であるスペインのEines Systems社、続いて2020年には、人間には見えない波長まで測定し、素材の成分などの情報も検知できるハイパースペクトルイメージングの分野におけるトップ企業、フィンランドのSpecim社も傘下に加わりました。

Eines社とSpecim社 Eines社とSpecim社

色を測る機器の開発を始めてから半世紀以上、当社はお客様の要望に寄り添う形で開発を進め、事業領域を拡大してきました。その結果、多くの分野において、デファクトスタンダードとしての地位を確立してきたのです。

その評価を支える大きな理由は、長年にわたる測定結果の実績です。使い続ける中での計測値のズレや、複数台の計測における器差が極めて小さいことで、信頼を築き上げてきました。もう一つはキャリブレーション、つまり標準器との値を比較し調整する校正技術の高さです。計測業界で一目置かれる各社をグループ企業として迎えることができたのも、機器の信頼によって培われた、世界各国のお客様による評価があればこそだと思っています。

お客様との信頼関係が当社の大切な資産です。時代とともに測る対象やニーズが変化、多様化するなか、お客様の意図を的確に実現するための技術を追求し続け、世界のバリューチェーンに貢献していきます。

機器の確かさを維持するイメージ

2003年に経営統合する以前の2社はそれぞれ社名変更を重ねてきたため、経営統合直前の両社のブランドであるコニカ、ミノルタという呼称で統一しました。

センシングの年表

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