イノベーションストーリーズ

画像IoTソリューション

コア技術とAI技術の
融合から生まれた画像IoT
製造業の強みを活かして、
人々の“みたい”を実現

目次

昨今、AIという言葉を聞かない日はありません。AI技術は急速に進化し、人々の生活やビジネスに大きな影響を与えると予想されています。現在、コニカミノルタでAIを活用したビジネスを牽引しているのが、画像ソリューション事業です。この事業の強みとなる画像 IoT技術とは、画像入力デバイスから得られる情報と、様々なセンサーデータを統合し、AI 処理による高度な認識・判断を行うことによって、お客様の “みたい” という要望に応える技術です。

この事業が産声を上げたのは2014年頃のこと。150年の歴史を持つコニカミノルタの中で最も若い事業のひとつです。最先端の事業でありながら、実は光学や画像という、創業以来培ってきたコア技術を受け継ぐ存在でもあります。そこには、時代の波に翻弄されつつも、技術を磨いてきた技術者たちの努力がありました。

デジタル黎明期の旗手たち

当社製品のデジタル化の始まりと言えるのは、1989年。社内外から集められた数人の技術者たちにより、LSI※開発が始まったのです。当時はまだ、パソコンやインターネットの企業への導入が始まったばかりでしたが、デジタル技術は急速に発展し、社会に大きな影響を与え始めていました。

当社の製品は、カメラも複写機もX線撮影検査装置もすべてがアナログでした。どれも画像という膨大な情報量を扱うため、デジタル化にはLSIが不可欠でした。彼らは社内でデジタル化の必要性を説いて回り、7年足らずで、ほぼ全事業の製品について、LSIを開発してしまうのです。

なかでもカメラについては、世間でも、「デジタルがアナログのクオリティを超えることはない」という見方が一般的でした。ところが、社内のカラーマネジメントの専門家が「超えられる」と断言して、実験結果を見せたことで、風向きが変わりました。開発部隊には画像処理技術者やシステムエンジニアが集まり、画像処理に必須の「イメージシグナルプロセッサ(ISP)」の自社開発を進めていったのです。

その後、製品のデジタル化は加速していきます。複写機はプリンターやスキャナーなどの機能を併せ持つ複合機になり、競合とのスペック競争の激化につれ、多種多様なLSIが開発されていきました。

※LSI(大規模集積回路):多数の電子部品や回路を1つのチップに集積したもの

人財の結集で画像IoTを実現

2000年代、「IoT (Internet of Things:モノがインターネットに接続されることで、情報をやり取りし、自動化や効率化を実現する技術)」が注目され始めます。当社では、2014年から3カ年の中期経営計画で、初めてIoTに言及し、事業創出に取り組み始めました。従来のモノを売るビジネスから、画像技術によるデータを活用してソリューションを提供する、サービスプロバイダーに変革しようと考えていたのです。

そこで脚光を浴びたのが、デジタルカメラで光学、画像処理やシステム化を担当していた技術者たちでした。実は、当社は2006年に祖業であるカメラ事業から撤退、彼らは様々な部門に散り散りになっていたのです。画像とは無関係な仕事をしていたメンバーも多く、得意な分野で活躍する機会を求めていました。彼らが合流して、具体的なソリューション開発が始まりました。

当社の強みは、カメラで培った画像処理技術に加えて、様々な入力デバイスを開発・製造していることです。センサーや撮影装置によってデータを集められる上に、必要なデータを得るために改良していくことも可能です。これは製造業だからこそできることでした。

画像技術を活かしてまず挑んだのが、行動検知です。人の動きをデータ化して解析するアルゴリズムを組むためには、ディープラーニングが不可欠でした。画像認識の分野では、2010年ごろからAIの進化が加速し、注目が高まる中、当社にもディープラーニングの開発環境を整えられる時期が訪れます。2015年、当社は米国製のAI開発用スーパーコンピューターを導入したのです。当初、このコンピューターを国内で導入したのは民間企業2社と研究機関1つだけ。なかでも当社はいち早く稼働に成功しました。このことは、多くの優秀なAI人財を呼び込むことにもつながっていきます。

次の段階、アルゴリズムを機器に実装するにあたっては、複写機のLSI開発を手掛けてきた技術者たちが活躍することになりました。複写機は大量の画像を取り込んでデータ化し、高速で処理する必要があります。彼らは限られたハードウェアリソースで、膨大なプログラムを高精度に実装する技術に長けていました。

多様な入力デバイスと画像を扱う技術、ディープラーニングでアルゴリズムを作成し、それを実装する高度な技術。これらの強みを結集したのが、画像を活用したIoT、すなわち、当社の画像IoTソリューションなのです。

難関ミッションで磨かれた技術

画像IoTソリューションの原点となったのは、”人行動”認識技術を活用した、高齢者の介護施設向けの見守りシステムでした。居室の天井に備え付けたカメラ付きの行動分析センサーで部屋全体をとらえ、入居者の方の行動を分析。起床、離床、転倒、転落などの行動を認識すると、介護スタッフのスマートフォンへ映像と共に通知します。介護スタッフは過不足なく各居室への駆け付けや見回りができるようになり、業務が効率化されることで余裕時間を生み出し、充実した介護を実現できます。

しかし、天井から広角レンズでとらえた動画で人の姿勢を把握するのは難しく、正確な行動検知は簡単ではありませんでした。また、扇風機の首振りや、カーテンの開け閉め時に映る影など、入居者の行動と見間違いやすいものが少なくありません。実際、開発の初期段階では、転倒などが起きていないのに警報を発してしまう誤検知が大量に発生しました。一方で、転倒・転落は重大な事故にもつながりかねないため、センサーの感度を下げて見逃してしまうといった事態は避けなければなりません。誤検知も見逃しも限りなくゼロに近づける。そんな過酷な条件を乗り越える必要がありました。

問題解決の突破口は、ディープラーニング技術の導入でした。画像認識の精度を高めるために、施設の協力を得て試行錯誤を繰り返し、AIの学習を重ねていきました。学習量が増えるほど、アルゴリズムは膨大なものになっていきます。それを小さなデバイスの中に収められる、高度な実装技術が威力を発揮しました。「この経験で、我々の画像IoT・技術は鍛えられた」と技術者たちは語っています。この困難なミッションをやり遂げたことは、画像IoTの可能性を示す好例となり、さらに開発を進めていく原動力ともなっています。

画像IoT技術を活用したソリューションは、この他にもいろいろと生まれています。例えば、商業施設で服装や持ち物も含めた人物の全体像から、顔を識別することなく同一人物かどうかを判定、来店者の行動分析を行って、人の流れに合わせた店舗レイアウトや商品の陳列の最適化を支援するシステムを開発しました。また、赤外線を利用した高度な光学技術と画像処理技術で、メタンガス等の炭化水素系ガスを“見える化”し、ガスがどこからどの程度漏えいしているか、直感的に判別可能なシステムを実現しました。この可視化システムは、2023年から北米での販売が始まっています。

画像IoTが当たり前に提供できる世界へ

開発に必要な画像IoT関連技術がそろってきたことから、次に考えたのは、お客様にどのようにソリューションを提供するか、でした。そして、画像IoTをビジネスとして成り立たせるためには、戸別訪問販売ではなく、クラウド経由のサービス提供が必要との結論に至りました。クラウド経由でアプリケーションを届けて課金できれば、効率的でありグローバル展開も可能です。そこから、情報や価値を共有し、サービス提供の基盤となるプラットフォームを作るという構想が生まれました。

こうして誕生したのが、2020年4月に提供を開始した画像IoTプラットフォーム「FORXAI(フォーサイ)」です。お客様だけでなく、パートナー企業とのコミュニティーを築き、提供したソリューションへのフィードバックを受けて、品質をさらに高めていく、というエコシステムを目指しています。これまでの“モノ売り”からサービス提供プロバイダーへの新たな挑戦が始まったのです。

EP450Z

FORXAIでは、すばやくサービス提供ができるよう、IoTプラットフォームと当社独自のエッジデバイスや画像AI技術をオープンに提供することにしました。早速、技術やチャネルそれぞれに強みを持つFORXAIパートナーが集まり、従来にはなかったソリューション創出の機会が生まれています。また、当社の既存事業にとっても、クラウド、AI、組込みなどの技術力あるパートナーと組むことで、多様なソリューションの実現が可能になりました。

このような取り組みにより、既存事業でも、当たり前のように画像IoT技術をお客様に提供するようになりつつあります。例えば、ヘルスケア事業では、X線動画解析ワークステーションに独自の画像処理技術を搭載し、臓器の動きや関節の動きを定量化して評価する、といった診断の支援もできるようになりました。また、プロフェッショナルプリント事業においても、印刷会社のベテラン社員がプロの眼で行っていた画質調整が、AIや画像認識技術によってできるようになりました。

CO2排出量グラフ

また、2014年に打ち出した、2023年までにAIエンジニア、データサイエンティストなどの画像IoT人財を1,000人に、という目標も達成し、さまざまな部門への配置が進んでいます。画像IoTにステップを進めてから10年、社内のいろいろなところに波及効果が起きています。

当社は150年間にわたって、お客様の「みたい」という想いに応え、人々の生きがいを実現してきました。当社の歴史の中ではまだ新しい画像IoTですが、社会が求める新たな「みたい」に対して、我々だからこそ実現できる技術で応えることで、社会課題の解決に挑戦し続けます。

イノベーションストーリーズ

沿革に戻る