イノベーションストーリーズ

デザイン

そこにはいつもデザインがあった
製品・サービス、ブランド、そして顧客体験

目次

会社の始まりから、デザインはあらゆる製品・サービスに寄り添ってきました。その中には、大ヒットの一助となったり、業界の常識を塗り替えるきっかけとなったりといった例もあります。デザインはともすると製品や販促物などの最終的な形を生み出す作業のみだと思われがちですが、企業のブランディングや製品・サービス開発の上流工程でも欠かせない業務です。当社のデザインセンターも、製品のデザイン開発からブランド管理、顧客体験のデザインなど、幅広い領域を担っています。

長い歴史の中から、2003年のコニカミノルタグループ誕生以降にデザインセンターが手掛けてきた役割から、3つのエピソードをご紹介します。

ロゴを経営統合のシンボルに

2003年8月、コニカとミノルタの経営統合により生まれた新会社のシンボルロゴの発表を見て、一番驚いたのは社員たちだったかもしれません。なぜなら、社名「Konica Minolta」のロゴタイプの上のシンボルマークが、ミノルタのロゴとしてよく知られていた青い「グローブマーク」だったからです。経営統合で、承継会社ではない側のロゴを採用することは、極めて異例でした。

新生コニカミノルタのシンボルロゴの開発がスタートしたのは、同年1月の統合発表から間もない時期。両社のデザイン部のメンバーが集められ、まず取り組んだのは、社名のロゴタイプのみのデザインでした。デザインの方向性を確認するため、複数の役員にヒアリングを行ったところ、一様に語られたのは次のような言葉でした。「両社のどちらが上、どちらが下、と感じさせるデザインではいけない――」 ロゴを統合のシンボルにしたいという思いをひしひしと感じた、と当時の担当者は振り返ります。ロゴデザインを外部の広告代理店に任せず、両社のデザイン部の協働でやると決めたのも、そういう考えによるものでした。

とはいえ、ブランディングの要となるロゴを、短い期間に社内だけで決定するのは困難です。そこで名前は出さないことを条件に、あるグラフィック界の巨匠をオブザーバーに迎えて検討を進めていきました。そして3月、2案に絞って経営陣に提案したところ、その結果は予想外のものでした。選定されたロゴタイプを、ミノルタのグローブマークと組み合わせることが決定されたのです。初代社長となった元コニカ社長の岩居文雄は、当時このように語っています。「新しいマークを作って浸透させる効果とコストなどの検討も十分に行った結果の決断です。そして何より、見れば見るほどよくできているマークで、私自身とてもほれ込みました。」

このシンボルロゴは、米国の著名なグラフィックデザイナーのソウル・バス氏によるデザインで、1981年にミノルタのCI(コーポレート・アイデンティティ)推進の一環として導入されたものでした。地球をモチーフとして中央に光を配置したグローブマークは、新会社の経営ビジョン「イメージングの領域で感動創造を与え続ける革新的な企業」「高度の技術と信頼で市場をリードするグローバル企業」にもふさわしいものでした。マークのフォルムは変えませんでしたが、色に関しては考察を重ねた結果、ミノルタ時代よりも少し赤みを加えて、独創的なイノベーションを表現した「イノベーションブルー」を決定。5月末のことでした。

その後、製品や看板、名刺、ウェブサイトなど、様々な場面でのアプリケーション展開を検討し、CIマニュアルを作成。なんとか無事に8月のシンボルロゴ発表を迎えたのでした。

2006年には、市場トレンドへの対応や製品表示との連続性を目的に、3Dタイプのグローブマークを開発、これが現在の優先ロゴとされています。

情報の流れをデザインする

当社がオフィス向け複合機「bizhub(ビズハブ)」シリーズのデザインを劇的に変えたのは、2007年発売のカラー複合機、bizhub C550からでした。従来、事務機と言えば「白」という時代に、敢えて「黒」をベースカラーとして白いラインを配置するという、スタイリッシュボディを提示したのです。現行機種にも受け継がれているbizhubのデザインコンセプトは、このとき築き上げたものでした。

刷新の背景には、インターネットの普及によるネットワークデバイスの増加と、オフィスでの働き方の多様化があります。当時、先進的な企業のオフィスでは、画一的なレイアウトから脱する動きが生まれていました。オフィス内に多様な居場所を用意し社員同士の交流を促すことで、効率性と快適性の両立を図り、知的生産性の向上を目指したのです。それに伴って、複合機のオフィス内での扱いにも変化が現れました。バックヤードから、皆がアクセスしやすいオフィスの中心に置かれるようになったのです。

こうした動向に対応して取り入れたのが、多様なオフィスインテリアに調和する黒白のカラーリングと、背面の設計にも配慮した、設置の自由度が高い全方位デザインでした。なかでも、この黒と白を組み合わせた配色には、見た目の美しさだけではない意味がありました。黒いボディを取り囲むように配した白いラインを、ユーザーの取り扱う情報が行き交う「インフォメーションライン 」と位置付けたのです。ライン上に操作パネルを配置するとともに、作動状態の表示を集約しました。青く点滅するライトなどで、データの受信やプリントなどの進行中のジョブを可視化し、ユーザーが視覚的に感じ取れるようにしたのです。

これまでになかった斬新なデザインゆえに、上市にあたっては、販売部門にコンセプトを理解いただくことが不可欠でした。そこでデザインセンターのメンバーが分担し、各国の販売会社に出向いて説明会を実施。営業から「見た目だけでなく、使い勝手を考えたデザインだとわかった」「印刷速度や画質だけではなく、デザインも機能のひとつだ」という声もいただけるようになり、このシリーズの大ヒットにつながったのでした。

その後もbizhubシリーズのデザインは、利用者との接点を重視しながら進化を遂げていきます。代表例が、2013年から採用している「INFO-Palette(インフォパレット)」です。複合機の提供サービスの拡張に伴うアプリケーションの増加に応じて、タッチパネルのデザインを使いやすく再構築し、 画家の使うパレットに見立てたビジュアルにまとめたものです。コピー、FAX、スキャンといった異なる用途でも、操作画面 の基本レイアウトを揃えて、操作に一貫性を持たせました。シンプルに必要な情報を示すことで、ユーザーが選びたい機能へと迷いなく導くように意図しました。現在はさらに 、パソコンやスマートフォンから複合機を操作するソフトウェアやアプリケーションのデザインにも、INFO-Paletteのコンセプトを展開し、同じ使い心地で操作できるようにしています。

さらに2019年に実施したフルモデルチェンジでは、それまでA4機やA3機などの機種ごとに進めていた開発体制を見直し、シリーズ全体でデザインを統一しました。例えば、操作パネルまわりでは、タッチパネルを浮き上がらせて存在感を際立たせる、パネルの最大立ち上げ角度を90度まで拡大して車椅子ユーザーからも画面を見やすくする、ラインナップ全体でUIを統一して操作体験を合わせる、といった改良を加えています。これまで築いてきたブランド財産を継承しつつ、時代のニーズに適応して顧客体験を高めていく。進化は今でも続いています。

「人間中心」のデザイン開発

事業を進めていく際に、ビジネス的側面、テクノロジー的側面とともに、「人」の側面を押さえることは重要です。ユーザーのニーズ、要求や行動を中心に置いて設計する方法論やアプローチを「人間中心設計」と言います。そのプロセスとは、次のようなものです。ユーザーや現場の観察を通してユーザーが抱える課題を抽出し、課題解決に向けて仮説を立てます。仮説に基づき、モックアップやシミュレーションを用いて使い勝手を検証し、フィードバックを収集して改善していきます。デザインセンターではこうした工程を繰り返しながら、使いやすい機器の形状や視認性の高い画面表示法を追求してきました。

製品開発では、作る側が使いやすく工夫したつもりでも、実際にはユーザーが使い方を迷ったり、使いにくさを感じたりする状況は生じます。作り手の思い込みを排除した開発を進めるためには、ユーザーの観察を起点とする人間中心設計が欠かせません。ミノルタでは1990年代からユニバーサルデザインに着目し、車椅子ユーザーや視力が弱い方などに複写機を操作していただき、改善を進めてきました。コニカでもユーザビリティの高いGUI(Graphical user interface)開発のため、さまざまなタイプのユーザーに複合機を使用いただいて評価を行うプロジェクトを2002年に立ち上げていました。

プロジェクトによっては、デザインセンターが開発の初期段階から参画する場合もあります。ユーザーの課題を自分ごととして捉える作業から出発すれば、異なる部門の担当者同士でも目指す方向を共有しやすくなります。相反する要望があっても、ぶれずに、目標に向けた取り組みを進められます。初期のコンセプト検討からプロモーション、お客様の手に渡るまで、デザインセンターが一気通貫でサポートすることで、一貫性のあるブランド体験を届けることができると考えています。

B to Bのビジネスを手掛ける当社でも、機器やサービスを利用するのは個々の「人」です。人への眼差しを起点にしたデザインの取り組みを通して、より高い体験価値の提供を目指していきます。

2003年に経営統合する以前の2社はそれぞれ社名変更を重ねてきたため、経営統合直前の両社のブランドであるコニカ、ミノルタという呼称で統一しました。

デザイン ピックアップ

35mm一眼レフ
MINOLTA α-7700i (1988)

オートバイや車のデザインで有名なドイツ人デザイナー、ハンス・ムート氏とのコラボレーションにより開発された、 AF一眼レフの第2世代モデル。人との一体感や操作の快適さを追求したエルゴノミックデザイン(人間工学的デザイン)の先駆けとして、握りやすいグリップ形状や押しやすいボタンの形状・位置などが、その後の一眼レフデザインの基本となりました。

MINOLTA α-7700i

コンパクトカメラ
Konica/DIGITAL現場監督・DG-2 (2002)

1988年に初の工事記録専用フィルムカメラを発売して以来、現場ユーザーの声に応えてアップデートしてきたシリーズ。 JIS保護等級7級の防水性と、ホコリに強い防塵性を保ち、しっかりホールドできるグリップ形状や、ぬれてもすべりにくい硬質ゴム外観、軍手でも操作しやすい大きめのスイッチなど、過酷な工事現場の環境下でも安心なデザインとして定評がありました。

DIGITAL現場監督・DG-2

コニカミノルタプラネタリアTOKYO
(2018年オープン)

新たな可能性を実験するドーム(DOME1)と伝統的なプラネタリウムドーム(DOME2)で構成される複合型ドームシアター。フレキシブルなレイアウト変更が可能なDOME1に対して、DOME2はブルーグリーンを象徴的に使用してクラシカルな空間を演出。これは世界初のプラネタリウムを創った18世紀のオランダの天文学者の研究室で使われていた色で、プラネタリウムが積み重ねてきた歴史への敬意と感謝を込めた空間となっています。

コニカミノルタプラネタリア TOKYO DOME2

高速デジタルラベル印刷機
AccurioLabel 400 (2022)

色合わせ、機器メンテナンス等、専門スキルが必要だった作業を簡易化して、オペレーションの効率化を実現しています。これにより、印刷現場におけるタイムロス最小化だけでなく、オペレーターの育成期間の大幅短縮をサポートします。両サイドのラベル収納部を従来の収納型からせり出し型にして、産業機器では難しい軽快な印象を作り出している点なども評価され、多くのデザイン賞を受賞しました。

AccurioLabel 400

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