COVID-19により各国で行動制限が発せられ、複合機事業に影響が出始めた時、取締役会では、「複合機事業の売上のうち、ノンハードの売上はCOVID-19が収まっても元には戻らない。この現象は一時的な変化ではなく、構造的な変化だ」という議論をしました。その認識に基づき、2020年度を初年度とする中期経営計画の修正を執行陣に求めました。従来想定していたより早くペーパーレス化が進むという前提に置き換えて、複合機事業の転換と全社事業ポートフォリオ転換を加速し、転換が終わった2025年の姿を描き、それを実現するために2022年までに成し遂げるべきことは何か、という観点で計画を修正するように求めました。取締役会としてまず、修正後の中期経営方針を承認しました。一方、中期経営計画は、執行側に対し、転換をやり切るためのキャッシュの使い方と重点施策について再考を求め、内容を確認後、承認しました。2021年度、2022年度はこれらの方針・計画にしたがって業務執行されます。

2020年度は、不本意ながら赤字決算となりました。しかし、原因がCOVID-19による各国での行動制限にあることは明確であり、それが構造変化をもたらしたとの認識のもと、上述のとおり、中期経営計画の修正を求めました。一方、取締役会としては、2020年度においてうまくできたこと、2021年度以降の業績回復、事業ポートフォリオ転換の達成につながる成果についても認識しておかなければなりません。

私が認識した「成果」は、第一に、複合機事業において、COVID-19の影響を受け売上高が減るなかで固定費削減に取り組み、損益分岐点比率を下げたこと。第二に、各事業がCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)の改善に取り組んだ結果、営業キャッシュフローの創出が通期換算で1,000億円相当の水準に回復したこと。第三に、インダストリー事業(事業ポートフォリオ転換後の当社の主役になる事業)を構成する、センシング事業、機能材料事業、画像IoTソリューション事業が、通期増収増益を達成し、戦略が軌道に乗っていることを示したこと。第四に、当社の得意とする画像分野でAIを活用してソリューション提供するためのソフトウェアプラットフォームである、FORXAI(フォーサイ)の提供を開始したこと。FORXAIにより、インダストリー事業に新しい競争軸が付与されるとともに、グローバルなパートナー展開を通じた画像IoTソリューション事業の拡大が可能となります。そして第五に、プレシジョンメディシン事業の事業価値向上のための取り組みが進行したことです。

プレシジョンメディシン事業について、私が参加した投資家とのスモールミーティングでのやり取りをご紹介します。参加した投資家の一人から、「御社を評価するうえで、私たち投資家が見落としている点はあるでしょうか?」という質問をいただきました。私は以下のように答えました。「プレシジョンメディシン事業については、投資家の評価と事業の実態に食い違いがあるように感じています。当社から決算IRを通じて、当事業について事業利益の計画対比を中心に発信していることも反省しなければならないのですが、当事業は、成長が期待されているTAM※1 400億ドル以上の市場※2のなかで、技術と販売チャネルを裏づけにすでに一定のポジションを獲得しており、平時(2019年度)の粗利率は59%に達する事業を確立しています。成長市場でのポジション取りと、3段階の成長戦略実現に向けた投資を続けているため、当社グループへの利益貢献には至っていませんが、成長ポテンシャルについて高く評価する関係者も存在しています。買収後まだ利益貢献していない失敗事業と見るか、事業価値を確実に高めている事業と見るかで投資家の評価が違っています」。質問した投資家にとっても新たな着眼点だったようで、私としては建設的な対話ができたと思っています。

当社では、3カ月先までの取締役会議題、その目的などを、CEOと取締役会議長、取締役会事務局の三者で議論して決めています。私からは、私が年初に策定した取締役会運営方針も参考にして、監督側として確認したいことを議題として提案します。取締役会が承認した経営方針の実行状況を確認するための議題のほかに、過去1年間に設定した特徴的な議題をご紹介します。

当社のマネジメントシステムを総点検して、認識された課題は何か、課題に対しどう対処するのかについて報告を求めました。同様に、当社の企業風土の総点検・認識された課題・課題への対処の報告を求めました。議題として設定した理由は、これらが、経営方針を実行して結果を出すための実行力に大きく関わるからです。結果が出てから取締役会が意見を言うことも必要ですが、結果の原因となる要素について、現状を知り意見を述べた方がより建設的・効果的であると考えたからです。議題設定の意義と議論した内容について、CEOおよび社外取締役からポジティブな感想が得られました。

企業価値を生む構成要素である、イノベーション力、市場創出力について、外部評価に基づく現状と今後の方向性について議題として設定し、議論しました。イノベーションを創出する力を、当社が組織的に仕組みとして有しており維持できていることは、継続的に高い評価を得ている事実に示されていると思いますが、イノベーション力の稼ぐ力への転換が、組織的に仕組みとしてできていないことが、当社の非財務面での評価が財務的な評価につながっていない原因だと見ています。当面は特定の人財に頼らざるを得ませんので、複合機事業の転換と全社事業ポートフォリオ転換を成し遂げるためには、適材を配することが必須であると見ています。そうした観点で各事業を引っ張る人財の配置、足りない人財の採用の状況を監督していきます。

ステークホルダーの関心の高いサステナビリティ課題への取り組み状況についても、当然、議題として設定しました。質疑応答を議長の立場で観察していて、この議題に関しては、執行側の方が上をいく、と感じました。社外取締役の質問は、総じて表面的な質問にとどまっているのが現状です。執行側は、私がCEOだった2009年以降、「持続的に成長できる会社になるためには、社会から支持され必要とされる会社にならねばならない」と掲げ、目標を立て実行し実績を積み上げてきましたので、社外取締役との経験の差が表れていると思います。本領域については、新任社外取締役が加わった今年度の議論に期待したいと思います。

以上、取締役会議長として1年を振り返りました。投資家・ステークホルダーの皆様とは、今後とも建設的な対話を続けて参りたいと思います。

※1  TAM:Total Addressable Marketの略。製品・サービスが獲得可能な最大市場規模。

※2  出所:BCC Research (2021). Biomarkers: Technologies and Global Markets

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