「事業収益力の強化」に貢献する知財戦略の実行

知財投資マネジメントの強化

事業収益力の強化に向けた知財投資の最適化

当社では、知的財産の創出や権利の形成は、事業の成長や収益力強化に向けた投資であるという認識の下、知財活動を推進しています。しかしながら、知財費用については、各年度ごとに各事業との個別調整により定められる傾向がありました。
新中期経営計画における事業の選択と集中による事業収益力の強化を知財面からも推進するため、今後は、グループ全体の知財総投資を全体戦略に応じて最適にアロケーションする形へ転換していきます。

知財投資アロケーションの概念図

知財投資の適正さを測るROI

知財投資が適正になされているかどうかは単に投資額だけで測ることはできません。知財投資により目的通りのパフォーマンスが得られているか、即ち、知財ROI(Return On Investment)の評価が必要となります。
但し、知財ROIの評価は、事業の位置づけや知財活動の目的に応じて個別に考える必要があります。例えば、一製品あたりの特許の数が多く、多数の競合企業の中でしのぎを削っている事業では特許をはじめとする知的財産権を保有していなければ多額のライセンス料を競合企業に支払うこととなり、事業収益を悪化させます。従って、このような事業では、知財活動をしていなければ競合企業に支払っているはずの仮想のライセンス料と実際の実施料収支との差異を「Return」と捉え、知財ROIを算出して評価することが考えられます(所謂、ライセンス免除法)。例えば、当社における情報機器事業の知財ROIを算出し、2020年を1として2022年までの推移と2025年の目標値を示したものが、下図となります。一方、提供する製品や事業環境が異なれば、同様の評価で知財ROIを測ることは難しく、事業による利益のうち、知的財産がどの程度寄与しているかを事業ごとに分析し、知財投資により得られた事業貢献利益を「Return」として評価する方法などが考えられます。

情報機器事業における知財ROIの推移

強化事業の拡大を支える知財活動

強化事業の強みを支える知財障壁の強化

強化事業の拡大のドライバーとなる各事業の“強み”については、集中的・先行的な知財投資・活動を継続して実行することにより、強固な知財障壁を築いています。
例えば、ヘルスケア(メディカルイメージング)領域の“強み”の1つである「高付加価値画像診断」を提供するデジタルX線動画撮影・動態解析(「X線動態」)、プロフェッショナルプリント事業強化領域の“強み”の1つである「自動化、スキルレス、リモート化技術の現場での使いこなし」を実現する自動品質最適化機能、インダストリー強化領域の成長ドライバーの1つである後延伸超幅広「SANUQI」フィルムを実現する「溶液型+ベルト」方式製膜法について、各マップで示すとおり、他社を圧倒する特許網により参入障壁を構築しています。このような知的財産を活用するとともに、さらに集中的な知財投資を進めることで、強化事業の「強み」を更に強化していきます。

「SANUQI」領域のスコアマップ
「X線動態」領域のスコアマップ
自動品質最適化機能領域のスコアマップ

注力領域に関する日本特許のスコアマップ

株式会社パテント・リザルトの特許分析ツール「Biz Cruncher」を用いて当社にて作成。円の大きさが各社の特許件数を、横軸が最もパテントスコアの高い特許の評価値、縦軸が特許群全体の評価値を示します。

インダストリー事業の中長期成長戦略

強化事業の中心となるインダストリー事業では、精密技術等の「コア技術」や、開発・製造・顧客サポートが一体となった「現場力」や顧客との強固な関係を「強み」として、センシング事業、機能材料事業、IJコンポーネント事業等の各事業を成長させていくことに加えて、インダストリー事業横断での事業開発強化による中長期的成長戦略を描いています。そのために、従来の事業ユニットを超えて横断的に動き、注力領域であるディスプレイ、モビリティ、半導体の各産業のバリューチェーンと技術を俯瞰できるフロント人財を配した組織として、新たに「インダストリー事業開発センター」を創設しました。インダストリー事業開発センターを中心に、インダストリー事業領域に蓄積された顧客関係や技術資産をフル活用して、顧客課題の解決に向き合うことで信頼を高め、ものづくりサプライチェーンの川上~川中の精密ソリューションプロバイダーとして真っ先に声がかかる存在となることを目指します。

2023年10月開催のインダストリー事業説明会資料より抜粋

インダストリー事業における新たな知財戦略

前述の通り、各事業の「強み」については、先行的に特許出願を行い特許障壁を形成しています。一方、インダストリー事業では、各産業において既存の事業の「強み」を横断的に活用した事業開発を強化します。そのため、知財戦略としても、各事業毎の技術を中心とした特許出願活動だけではなく、各産業のバリューチェーンの中で見出された新たな顧客価値を軸に、複数の事業の「強み」を組合わせたソリューションを知的財産で守ることが求められます。
そこで、インダストリー事業開発センターとタッグを組んで、知財部門も顧客への密着性を高めた知財活動を行うことで、事業横断型の新たなソリューションを守る知財活動を強化します。下図に示されるように、このような新たな知財活動を通じた特許出願数を2023年度から2025年度の間に2022年度の10倍程度に増加させる計画としています。

インダストリー事業横断型の特許出願計画(2022年度を1とした推移)